ギルバート・オサリバン(1946年12月1日‐)
アイルランド出身のシンガーソングライター。
名曲「アローン・アゲイン」、「クレア」などで知られる。
みんな、あの歌詞(「アローン・アゲイン」)を個人の実体験だと思っているようだった。
結婚式でドタキャンされ、自殺を図ろうという……。
でも僕の母は生きているし、父は亡くなっていたけど、あの曲を書いたとき、父のことは思い浮かべなかった。
父を、あまりよく知らなかったんだ。
それに、もし知っていたら逆に気になって上手く詩を書くことができなかっただろう。
詩を書くときは別の人格になることができるんだ。
いい作詞家は、実際の経験がなくとも状況を的確に理解し、書くことができる。
いい作詞家だけではなく、いい作家にも通じることだ。
ある状況に身を置いて、当事者の葛藤を思い描く。
映画監督も同じだね。こんなときにはこんな表情、と想像してシーンを作る。
いい作品が作れるかどうかは、そうやって想像できるかどうかにかかっている。
僕の場合、ある状況を想定したときに終着点がわかってから書き始めるわけではない。
だから、想定した世界のあるところで内容が大きく変わることもある。
最初のものから微妙に変わってくることも、よくある。
「アローン・アゲイン」では、みんなから曲作りのことを訊かれるんだ。
あの曲を書いたのは、ゴードン・ミルズのコテージにいた頃で、1日中、曲を書いていた。
あの曲の場合も、メロディが先にできた。
中間部分は最初、2パターンあった。
どちらにするのか悩みながら歌詞を書き始めた。
バラードが合うと思った、コミカルなものではなくね。
素直に行こうと決めた。
そう決めたら、中間部分をどちらにするかも決まった。
タイトルが、いちばん時間がかかった。
どうやって、あのタイトルを思いついたのかは、はっきり憶えていない。
“Naturally(やっぱりね)”のところが、なぜかすんなりとは思い浮かばなかったんだ。
できあがったときは、特別な曲だとは思わず、次の「We Will」という曲にすぐにとりかかったよ。
自分がある曲を気に入って買うときは、自分なりにその曲が好きな理由というものがある。
あとから、じつはこういう意味だったと聞かされると、がっかりする。
作者の“本当の話”には、がっかりだ。
一度リリースされたら、それはもう作者のものではなく、聴き手のものなんだ。
大切なのは聴き手の解釈だけ。僕はそう考える。
曲づくりには苦労するけど、あとで解説が必要というのは曲が完成していないということ。
歌詞は、聴いてすぐにわかるものでなければならない。
それに、たとえ間違って解釈されても、誤解されたそのすべてのヴァージョンが僕は大好きなんだ。
自分がソングライターとしてスタートした頃、いちばん影響を受けたのはボブ・ディランだった。
彼は、それまでの「6月の月は…」のような歌詞から次の次元へと歌詞をレベルアップさせた。
もっと社会に目を向けた歌詞を書いた。
そして、メロディのうえではレノン&マッカートニー。
歌詞の面では彼らの影響はなかったけど…だからディランの歌詞とマッカートニーたちのメロディ、
それが合わさって僕のベースができたんだ。
今も、詞や曲づくりの方法は変わらない。
とにかく、いいメロディを生み出すこと。昔も今も、これがいちばん難しい。そのあとに、いい歌詞をつける。
今の歌詞を聴いてもらえば、僕の歌詞の腕は上がっていることがわかるよ。
歌詞を書くのも大好きだ。
でも、歌詞を書く方がメロディよりも時間がかかる。
ピアノの前に、1日8時間か9時間座る。それを週に5日間。それが日課となっている。
メロディは本能的に湧いてくるんだ。
時間をかければいいというわけではない。
いいメロディが浮かばなくとも、弾いていれば少なくとも指の練習にはなる。
そうすると、メロディはふと湧いてくる。
その瞬間を逃さず、僕の場合はカセットで録る。
そして、そこでとどまらずに、ひとつひとつ溜めていくんだ。
メロディは必要となったときに聴き返す。それが僕のやり方なんだ。
それから初めて歌詞を書き始める。
レコードにするまでメロディは完結させるべきではない。
一度、完成してしまうと、そのメロディは死んでしまう。
使わずに何年も寝かすことだってできる。
長い年月が経ってから聴き返しても、変わらずいいなと思うメロディもあるし、浮かんでからすぐ曲に仕上がるものもある。
でもメロディは、基本的に一度寝かせることにしている。その方が客観的になれる。
歌詞を書くのもエキサイティングだ。
どんなタイトルになるのか自分でもわからない。
なんと言えばいいのか、とにかく、とてもワクワクする仕事だね。
「アローン・アゲイン」を書いた当時、自分はとても若く野心もあった。
1971年の、これから大きな成功をつかもうという時期だ。
僕の、いちばんいい時代かもしれない。
9時5時の仕事をする必要もなく、とても幸せだった。
だから曲づくりに専念できて、自分が本当にいいと思えるものができたんだ。
(BS-TBS『Song to Soul』より)