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*マリクロ|電子書籍総合出版社 作家ブログ*
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いつもより少し遅く帰ってきた夜。
いつものように妻の手料理で酒を飲む。
9歳になった長男が隣に座った。
「ちょっと話していい?」
「ああ、どうした?」
「パパはさ、僕のことどう思ってる?」
妻は一人ご機嫌で、シャワーを浴びている。
「お前は俺の可愛い息子だから、お前の全部が可愛いよ。とくにその福耳がいいね」
もうすぐ5歳になる次男坊は、何かしなやかなネコ科の動物のように、
肩車をしてきては、全身にじゃれて、くずれかかってくる。
お前の父はジャングルジムではないのだが。
「僕がパパをどう思ってるかというとね、パパはやさしいね」
「そうか?」
「うん。それにパパは全部がすごいよ。サッカーも上手いし、何でも知ってる」
現在、過去、未来──
僕らは今、時間の泡の中を泳いでいる。
お前もとてもやさしいし、出会った人を幸せにすることができるよ。
でも、もっと欲を出してもいいんだよ。何でもやってもいいんだよ。
なぜなら、お前にも自分がこの三次元地球に生まれてきた理由と目的があるんだから。
それを、これから自分で見つけていくんだよ。いろいろ経験してさ。
俺はいつもお前を信じているし、応援しているよ。
それは、これからもずっと、変わらないんだよ。
「最後は、自分だよね」
と彼は言った。
グラスの氷が溶けて、カランと鳴った。
夢や理想では、世の中は変えられないと言う人がいる。
でも現実、この世界がよくなっていると、
いったいどれくらいの人が感じているのだろう?
自分と世界の間の、この救いようのない断絶に、
一度も絶望したことのない人が、どのくらいいるのだろう?
このマトリックス世界では、結局は、
夢や理想でしか、世界と自分に向き合えないのかもしれない。
自分は一体何者なのかを知るためには、
現実なんて、役に立たないのかもしれない。
次元の波間を漂う僕らには、
夢と理想だけが、唯一の道標なのかもしれない。
この現実世界こそが幻だとするならば。
まだ間に合う。
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