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*マリクロ|電子書籍総合出版社 作家ブログ*
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TV『情熱大陸』の9月9日OAは、写真家の篠山紀信氏だった。
編集者時代、何度か篠山さんの事務所に伺ったことがあった。
印象深かったのは、彼の持つ独特なマイナスのエネルギーだった。
メディアで観る彼は、つねに元気でエネルギッッシュ。
日本写真界の巨匠。
光射す華やかな場で活躍する、元気なオヤジというイメージが前面に出ているが、
事務所で観る彼は、自分の机にポツンと座り、ずり下げた眼鏡越しにこちらを見る、
その視線が僕の背後をボンヤリと、それでいて凝視しているような、
何か得体の知れない、老獪な妖怪のような、
光も、すべても吸い込むブラックホールのような怖ろしさがあった。
彼の背後には、まさしく、渦巻く真っ黒な闇が潜んでいた。
マイナス、ネガティブというのは、けっして忌むものではなく、
むしろ、その強烈なエネルギーに、
彼がつねに、日本の写真界の最前線を走っている理由がわかった気がした。
番組の中で、どこかの大学の教授をやっている元編集者の後藤さんが、
「多くの芸術家は自分の抱える闇をエネルギーに変えて創作しているけど、
篠山さんはまったく逆だ…」
というようなことを、もっともらしく語っていたけれど、
蛇(じゃ)の道は蛇(へび)。
わかる人にはわかるだろう、あの人の闇が。
その篠山さんと対比されてきた、もう一人の巨匠がアラーキーこと、荒木経惟氏だ。
荒木さんとの打ち合わせは、いつも彼のお気に入りの新宿のバーだった。
彼は、メディアで観るエネルギッシュで陽気なオヤジというイメージの通りで、
打ち合わせの場では、いつもあの感じ、ノリそのままだった。
いわゆる、サービス精神が旺盛で、初めて会った人間にも気さくで、
いつも、場を盛り上げて楽しんでいた。
しかしその陽気さが、荒木さんの写真がまとっている、あのセンチメンタルな陰影を、
対面する人間の意識に、強烈にしみ込ませてくる。
彼と会った人間は、その共有した時間の間、
彼の写真世界の中に入り込んだような幻想を楽しむことができる。
そうして彼は、その場にいるにも関わらず、突然フッといなくなる。
この世ではない、どこか違う世界に、いつでも出入り自由で、
あっちとこっちの境界線で、2つの世界を眺めている。
巷で話題の、芸能人がよく見るという「小さいおじさん」のような、
妖怪のようで、妖精のような。
彼の周りには死のにおいが、いつも重なり合う膜のように揺らめいていた。
エロスとタナトス。
死は忌むべきものではなく、生と等価なエネルギー。
その両極から伸びる線が交わる三角形の頂点に、「わたし」が存在する。
この世界の裏側の、闇や死の世界の中にも、
この世界と同じ量のエネルギーが存在している。
その闇は人間一人ひとりの闇とつながっている。
写真と文章は、どこかで似ている。
無意識の光と闇の陰陽を切り取り、抜き出して、
この世界にポトリと落とす。
闇はどこにあるのか?
宇宙にも、森の中にも、街角の路地にも、
そして自分の中にも。
闇とどうつきあうか?
避けては通れないならば、反発しても終わりがないのならば、
仲良くしてみるか。
手をつなごうか、抱きついてみようか、
対話してみるか、一緒に歩いてみるか。
ほら、もう一人の自分が、こっちを見ている。
わたしはあなたで、あなたはわたしならば。
まだ間に合う。
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