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*マリクロ|電子書籍総合出版社 作家ブログ*
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仏の道での“悟り”の例え話として、よく使われる話がある。
昔々、2人の僧侶が修行の旅を続けていた。
あるとき、歩いていると前方に、うら若き女性が立ち尽くしている姿が見えた。
理由を聞くと、この数日の大雨で川が氾濫し、道を濁流が分断している。
向こう側に渡りたいのだが、大変に深くて流れも激しく、とても渡れないという。
僧侶の1人が言った。
「では私があなたを肩車して、向こう岸に渡してあげましょう。さあ、私の肩に乗ってください」
はじめ女性は躊躇していたが、僧侶の肩に乗り無事に向こう側に渡ることができた。
その後も2人は旅を続けたが、どうにも、もうひとりの僧侶の様子がおかしい。
ずっと押し黙ったまま、不機嫌な顔をしている。
そこで女性を肩車した僧侶が、もうひとりに訊いてみた。
「お前は、どうしたんだ? ずっと黙ったまま、怒りに満ちた顔をしているが」
すると、もうひとりが答えた。
「お前は仏の道の戒律を破ったではないか」
「戒律を破ったとは、どういうことだ?」
「われわれ仏の道に仕える者は、女人の肌に触れてはならぬ。それをお前は、先ほど女を肩車し、肌に触れた」
「何を言っている。あの女人が困っているから助けただけではないか。それにお前は、いつまで過ぎたことにこだわっているのだ」
この僧侶は女の肌に触れたくて触れたくて、たまらなかったのだなと思う。
女のやわらかくあつい肌に触れ、においを嗅ぎたかった…
女の陰部を己の首筋に押し当て、甘い湿り気を感じたかった…
そのことで頭がいっぱい。
仏の道なんて、本当の本当のところは、どうでも…どうでも…いいの…
なんだか、せつない男心に胸が熱くはならないが、わかるぜ、人間だもの。
先日、街を歩いていたら、前から巨漢の男が歩いてきた。
今年いちばんの蒸し暑さに、男は「ふひーふひー」と激しく鼻息を鳴らしているのが、少し遠くから聞こえてくる。
するとすれ違いざま、何かを落とした。
振り返って見ると、たばこの箱だ。
「箱をポイ捨てか、コラッ!」と、少し戻って拾ってみると、中にはタバコが入っている。
13本。
声をかけてあげようか、ちょっと大きめの声で。
追いかけてみようか、あの巨漢を。
あぁ、面倒臭い。暑いのに…これから仕事なのよ、俺も…
そうこうしているうちに、遠ざかる巨漢。
結局、タバコは自分の胸ポケットにしまってしまった。
歩きながら考えた。
やはり声をかけてあげるべきだったか…いや、面倒臭かった。
まぁ、いただいてラッキーということで…いや、俺は汚い、ダメな人間なのか。
因果応報? 次は自分が何かを失くす? いやいや、いろいろ失くしてきましたよ今まで。
金は天下の回りもの、今度はどこかで誰かにお返ししてあげればいいでしょ。
しかし、少し罪悪感。タバコ13本で? いやはや小さいね、俺も。
“生まれてすみません…”“恥の多い生涯を送って来ました…”太宰治かって。
でもこのフレーズ、じつは盗作だったってね…盗作が発覚した作家は、キツイね…
万引きGメンって、1回やってみたいな、あの仕事。「ちょっと、お客さん!」なんてね。
しかし、善とは? 悪とは?…罪と罰、ドストエフスキー。プーチン。柔道家。
いや、悟りとはこういうことか! ああでもない、こうでもないって、その先にあるもの。
でも、結局は火をつけちゃんでしょ、俺。すべてを灰と煙にしちゃうんでしょ。
“燃え尽きちまったぜ、真っ白にな…”これは「あしたのジョー」。
“アンタ、背中が煤けてるぜ…”これは「哭きの竜」。
漫画も小説も、やはりキメぜりふが大切だね…名言とかね、
俺も欲しい〜キメぜりふ!
誰でも一生に一冊は小説が書けるといわれる。
その人だけの人生を。
死ぬ直前、人は走馬灯のように自分の人生を振り返るといわれるが、そうかもしれない。
自分の人生におけるポイント、イベントを濃いダイジェストで。
楽しいのだけ見たいけど、キツイのとかも見るのだろう。
それで、「ニューシネマ・パラダイス」のラストシーン、
少年が大人になって、思い出のフィルムを見るように、
微笑んだり、せつなくて泣いたりして。
あぁ、楽しみだ。
しかし、この日の、このタバコのことを走馬灯で見るとしたら…
こんな、金玉の小さな出来事が俺の人生の走馬灯?
いや、これこそが大きなターニングポイントだったと?
あぁ、楽しみだな、走馬灯!
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